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【薄桜鬼】桜飴 (短編集)

第2章 山茶花(サザンカ)-風間千景-


それから幾年か経った頃、またあの城で、あの幼い女の声を聞いた。

だが、その声から紡がれた言葉は、醜い物であったが…不思議と憎しみも嫌悪感も生まれない。

「鬼を愚弄するな」

と、悪戯心で近付けば、あの時の幼い女はもう幼くはなかった。

俺に怯むことなく精一杯睨むその瞳は、まだ汚れを知らない純粋なもので…人間でもこの時期の女は美しいと、初めて思ったものだ。

あの時の予想通り、この女は人間に苦労させられているようだった。

それでも濁らないままでいるこの女の瞳から溢れ出た涙を指でぬぐって口に含めば、女は頬を赤らめて目を逸らす。

この女もいつか他の人間のように、愚かな存在になるのだろうか?

醜い争いを繰り返し、己を差し置いて他人を出し抜く事を考えるのだろうか?

そうして…いつしか忌々しい人間共に飲み込まれ、その瞳は濁ってしまうのか?


人間の醜い仕打ちを、鬼だと例えていたこの女に、本物の鬼を忘れさせまい…と、ほんの思いつきで、本来の俺の姿を見せつけた。

その姿を見た時、

「綺麗…」

と呟いた女の声は、あの時の山茶花に向けられた声と同じように、耳に心地が良かった。
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