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【薄桜鬼】桜飴 (短編集)

第2章 山茶花(サザンカ)-風間千景-


あれは確か…肌を突き刺すような冷たい風が吹き抜ける日だったか…

愚かで忌々しい人間の姑息な話し合いに呼ばれ、渋々城へ向かった。

どの人間も卑しい顔をして…同じ人間を出し抜く事ばかりを話し合っていて…反吐が出る。

これ以上聞いていてもなんの価値もないと悟り、部屋を出て庭を歩いていた時だ…。

奉公人か?幼い女が一人、何やらかがんで拾い集めていた。

特に興を引くものでもなかったが、なんとなくその姿を目で追えば、拾い集めた何かを大切そうに抱え、水を張った桶に入れている。

「綺麗…」

その幼い女が呟いた小さな声は、冷たい風に乗って聞こえた。

たった一言だったが、澄んでいて耳に心地の良い声だ。

しばらく、桶を覗いては嬉しそうだったが…人間の女の怒鳴る声が聞こえてきて、その幼い女は城の中へ走って行った。

一体何を拾って、何を綺麗と言ったのかが、無性に気になって、桶に近づけば…鮮やかな紅色の花びらが水に浮いている。

思わず、ふ…と自分の口から笑みがこぼれた。

怒鳴っていた女の様子からして、あの幼い女は少々苦労しているのだろう…そんな事をふと考える。

人間の話を聞いているのは苦痛だが…あの花びらが浮いていた桶に、少し癒された気がした。

あの花びらは…山茶花か。

西の風間の本家の庭には、南蛮から来た山茶花がまるで塀のごとく沢山植えられていた。

椿とよく似たその姿は、椿よりも色が薄く…椿のように花ごと落ちるわけでもなく…桜のように花を散らすのに、桜のようには慈しまれず…そんな花だが…

綺麗…と呟いたあの幼い女の声は、くだらない人間への憎悪を逃がしてくれたようだ。

桶の中の鮮やかな紅色の山茶花の花びら達に、「礼を言う」と、礼を告げれば、風に揺られてひらひらと揺れた。
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