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【薄桜鬼】桜飴 (短編集)

第2章 山茶花(サザンカ)-風間千景-


すっかり冷たくなった空気に、葉を落としきった木々が寒々と枝を揺らす。

吐く息は白くて、今にも雪でも降り出しそうな灰色の空。

千鶴様には雪のような白と…そうね…桜のような薄紅色と…こんな日にも映える薄い紫色もお似合いになるわ…。

西本願寺の塀の外で空を見上げてながら、店にある反物を思い浮かべていれば、

「行くぞ」

いつの間にか風間様がいらしていて、腰を抱えられた。

とん、と軽い着地の音と共に、

「また来たんですか!」

と、千鶴様のお出迎えがあった。

このお二人はもう時間の問題。

くっつくなら早くくっついちゃってよ。

なんて、心で悪態をついてみる。

ふと、千鶴様の側にある洗濯桶が目に入った。

あの日…風間様に初めて会った日を思い出す。

冷たいお水が酷く荒れた手には辛かった。

千鶴様はどうして新選組にいらっしゃるのだろう。

「お洗濯の邪魔です!」

風間様にぴしゃりと言い放って、千鶴様は洗濯桶に手を突っ込む。

「この時期のお洗濯は辛いですね。…手に傷はできませんか?私はすぐに荒れてしまって…」

ごしごしと洗濯を始めた千鶴様はぴたりと手を止めてこちらを見てる。

何かいけない事を言ったかしら…

「失礼しました。馴れ馴れしく…」

千鶴様の様子に慌ててそう言えば、

「あっ…ごめんなさい。えっと…屋さんは…その…鬼ではないのですね。」

と、なんだか驚いたようなご様子だった。

「はい。…私は鬼ではありません。」

鬼ではない自分がこんなにも寂しく思う日が来るなんて、思いもしなかったけれど…。

「そうですか…。いつも風間さんといらしてるから、てっきり…。でも、鬼を知ってるのですね…。」

すみませんっと慌てている千鶴様が、ふとご自身の口元を隠した手は…やっぱり白くて綺麗な手。

ずきりと何故か胸が痛い。

そっと自分の手を触れば…がざがさとした感触で恥ずかしくなる。

「怖くはないのですか?そこにいる風間さんも私も鬼なのに。」

ざわざわとした心で上の空だった私に、千鶴様が真剣な面持ちで聞いて来た。

怖い?そんなこと考えてもいなかった。
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