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【薄桜鬼】桜飴 (短編集)

第2章 山茶花(サザンカ)-風間千景-


「ちゃんと千鶴様にそれをお伝えすればきっと…」

きっと貴方を…。

触れられている頬が熱い。

「髪の一本から足の指の爪の先まで愛し尽くす。」

逸らしたはずの目線には、再び風間様の鋭い瞳と重なる。

どきんどきん

未だ頬に触れたままの風間様の掌には、もうきっと私の体温の上昇と動揺して早くなった脈が伝わってるはず。

再び目線を逸らして、

「わ…私ではなく、千鶴様に!」

と、半ば叫ぶように言ってしまった。

頭上から楽しげにくくくと笑う風間様の声が聞こえる。

「あまり騒ぐな。犬に吠えられるのは面倒だ。」

正門から入らず、どうやったのか塀を飛び越えて入って来たのを思い出した。

「まあいい。次も共に来い。」

そう言って私の腰に腕が回って来たかと思えば、ひょいと担がれる。

そして再び、とん、と塀の外に降ろされた。

さっきはびっくりした上に、千鶴様に気を取られていて忘れていたけど…

風間様が触れた場所にはまだその感触が残っているようでくすぐったい。

担がれた時にふわりと香った、着物に移ったお香の香りが鼻に残ってる。

どきんどきん

胸に鳴り響く心音が苦しくて痛い。

さらりと風になびく金色の髪…

蛇をも固まらせるような鋭い瞳…

しなやかで長い指に…大きな掌…

何が起きたかわからないくらい、私を担いだままふわりと飛ぶ姿…

全部に苦しくなった。

千鶴様に向けるはずの言葉…千鶴様はどう思うかしら?

私に向けられたわけではないのに、脳裏に浮かんで…耳の奥で何度も繰り返される。

「何をしている?行くぞ。」

数歩先を歩く風間様は、不機嫌そうに振り向いた。

「はい…」

ひゅうっとすり抜けて行く木枯らしに、頬が痛い。

次はいつ行くのかしら?

風間様が千鶴様を口説くところなんて…正直見たくないけれど…

私は私の仕事をするだけ。

鬼の貴方に…愚かな人間だなんて思われたくないわ。
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