第2章 山茶花(サザンカ)-風間千景-
空は澄んでいて、雲はひとつもない晴天。
風間様のお供をして、お嫁様にぴったりのお着物をお造りする為に今…
「風間様?何故…」
何故、新選組の屯所なのでございますか…?
西本願寺の正門にある札を見て固まる私を、鼻でひとつ笑った風間様の指が、すうっと視界に入った。
とん、と軽く一突き眉間に触れられ、眉間に皺を寄せていたことに気づく。
「こんな犬臭い場所に来たくもないが、我が妻となる娘はこの中から出たがらないのだから仕方あるまい。」
お武家様もいろいろ複雑なのですね、と、あまり腑に落ちてはいないけれど、お返しすれば、くくくと風間様の物楽しげに笑う声が聞こえた。
新選組…あまりよく知らないけど、いい噂と悪い噂の両方を聞くわ。
特注でお造りした羽織代を踏み倒されそうになったって話も聞くし、どうしてこんな所にお嫁様が?
正面の門をくぐろうとした時、
「こっちだ」
腕をぐい、と引っ張られて、気がつけば肩に担がれていた。
「え…風間様?」
あまりの一瞬の出来事に頭がついていかないまま、とん、と地に降ろされる。
そこはもう御寺のお庭だった。
「風間様?こんな勝手に…」
せめてご挨拶を…と狼狽える私を鼻で笑う風間様は、
「あれが…我が妻となる娘だ。」
と、目線で視線を誘導する。
誘導された先には、袴姿の華奢な…男の子…じゃないわ…あれは…可憐な女の子の姿。
高めに結った艶やかな黒髪を風になびかせながら、せっせと箒で庭先の枯葉を集めてる。
「あの方が…」
何故、袴姿なのかはわからないけれど…
可愛らしい…
そう思った。
風間様のお嫁様だからどんな美人だろうかと想像したりもした。
齢は私より若くても、きっと色めき艶めき…そんな想像を。
実際は、色めきも艶めきもこれからな無垢な少女だった。
ああ…叶わない…
それが次に思ったことだった。
そんな事を思いふける私をその場に残し、つかつかつかとお嫁様に歩を進めていく風間様。
その後ろ姿を見るだけで、何故だか胸がぎゅうぎゅうと悲鳴をあげるように痛くなる。