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【薄桜鬼】桜飴 (短編集)

第2章 山茶花(サザンカ)-風間千景-


齢が七つを過ぎた頃、私は江戸のお城に奉公に出された。

お武家の娘達の中に、商人の娘の私。

それだけでも目立つのに、お武家よりもうちは裕福だった。

それに加えて気の強い私は、まだ幼かったのもあって多分生意気だったのだと思う。

雑巾をかけたばかりの廊下に泥水を撒かれたり、家から送られてきた着物がぼろぼろに切られたり…今考えてもよく耐えたなあ…と思うくらい、肉体的にも精神的にも鍛錬の日々だった。

成長するにつれ、男の人は優しくなった。

逆に今までよりも女の人の敵が増えた。

あれは…そんな「鍛錬」に耐えられなくなって、いい加減逃げ出したくなった齢十四の寒い日。

冷たい井戸水で洗濯をしていて…干す直前に泥を入れられてやり直し…いつものことだったけれど、寒い季節に冷たい水で、指に傷が出来て痛かったから辛かった。

「もう嫌っ!!鬼っ!!みんなくずで腐った鬼だわっ!!」

傷がぱっくりと割れて水につけるのも痛くて、指をまげるだけで血が出て来る指を、冷たい水につけながら叫んだ。

「…鬼を愚弄するな。」

低く地に響くような声に、心の臓ごと握られたかと思うくらい、びくりとしたのを覚えてる。

背後から聞こえたその声に、思わず振り返ると…珍しい薄い…綺麗な黄金色の髪をさらさらと冷たい風になびかせた男の人が立ってた。

「貴様を怒らせてるのは鬼ではなく人間だろう?」

私は、蛇だって凍りついてしまいそうなほどの鋭い瞳に捕まったまま、その男の人はそう言う。

「…そうよ。人間よ。鬼ではないわ。」

続けて、何よ、鬼みたいって思ってるだけよ!と、小さな声で悪態をついて、桶の冷たい水に手をつける。

ああ指が痛い…もう少しで感覚が麻痺をするから…それまでの我慢…そう思いながら、目をぎゅっと閉じて我慢をした。

とん、と足音が聞こえて、はっと目を開ければ、目の前に質の良い着物が見える。

「…鬼は人間のような非道はしない。」

低い声が頭の上から落ちてくる。

まだ言ってるの!なんて苛々して顔をあげれば、その男の人は桶の前にかがんでいて、少し見上げるくらいの目線にいた。

八つ当たりもいいところだけど、ぶつけられない怒りも合わさって、その人を思い切り睨む。

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