第1章 出会いはさようならから
純愛のシーンだ…!と思わずラーメンを啜る。
「…とか言いつつ、テメェは何回浮気すりゃいいんだァ?!」
そう言えば、松野夫人は私の旦那と四回も浮気してる。
なのに、組長が好き、と。
組長は、ギラリと松野婦人を見つめると、舌打ちをして縋り付く彼女の腕を振り払った。
ドラマのワンシーンを見ているようで、ラーメンが進む進む。
「寂しかったの…、貴方が仕事で忙しくて、なかなか構ってくれないから…」
睫毛を伏せ、目には涙を溜める松野婦人。
ドラマなら、ここで涙の包容から仲直りのキスシーンッ!!
盛り上がった勢いで、私はラーメンを飲み干す…!!
いつも以上に、試食用のラーメンが美味しく感じられる。
やっぱり、昼メロ系ドラマって面白いよね~。
「馬鹿かぁ、テメェ。俺が家に居る間も、弟達に手ェ出して嫌われてたろ?どうせ、お前が求めンのは、俺の持ってる金だ」
現実って、ドラマみたいに上手くいかないものである。
組長は、苦々しげに言葉を吐き出した。
その表情には、確かに愛していた、っていう彼女が刻み込まれていて…。
細められる目は寂しそうで、唇を噛む仕草は、悔しそうで。
本当は、彼女の腕を取りたいんだ、きっと。
それを実感すると、とても寂しそうに見えた。
「…ラーメン、食べます?」
何故だろう、理由はわからないけど、自然と言葉が出ていた。
「アッ、はい。いただきます…」
そう答えた組長は、とても寂しげに笑っていた。