第1章 出会いはさようならから
私が動きを止めた瞬間、組長は口をあーん、と開けてエサを強請るような仕草をする。
仕方なく、レンゲを使ってミニラーメンを作り、彼の口元も持っていくと、組長はズルズルと音を立ててラーメンを啜る。
その時、組長は嬉しそうに目を細めて笑った。
その笑顔が、幼く見えて非常に可愛い。
さっきまで、あんなに怖い表情だったのに…、嘘みたい。
もっと彼に色々な料理を食べてもらいたい。
もっともっと、彼のために料理を作りたい…!
「お前さ、その男の事好きだから浮気したんだろ?ん、二回だっけ?あれ…?」
「…いえ、結婚前もなので、四回です」
「あ、もうそんなになるの?たった一年なにに、多いねぇ」
「えぇぇぇぇ!?」
いやいやいや、四回って何、四回って!!
私は、驚きのあまり動きが固まった。
私が、旦那をキッと睨みつけると、旦那は「だって…」と言いつつ背中を丸める。
「いや、お前セックスも何もさせないだろ?…その、相手してくれる女のほうがいいに決まってる…」
「あ、うん…。弟としか見れないから、ね」
お互い、気まずい雰囲気が流れる。
これ、私達絶対結婚しちゃ駄目な奴だ。
旦那と苦笑しながら、目だけでどうしようか、と会話した。
でも、旦那もどうしたらいいか、わからないらしい。
その時だった。
急に組長の視線が私に刺さってくる。
どうしたんだろう、と思いつつ首を傾げると…。
「お姉さん、その体で処女?」
「ハァ!?そ、そ、そんな訳ないから!!!」
顔が一気に暑くなり、勢いで叫ぶ。
隣で旦那が「肯定したようなモンだろ…」とため息を付いた。
心臓がうるさいくらい音を立てる。
なのに、目の前に組長は嬉しそうにニヤニヤと笑いながら、私の方に歩み寄ってきた。
その時だ。
「待って…、まだ貴方の事が好きなの…ッ!」
松野婦人が、組長の足元に縋り付いた。