第1章 出会いはさようならから
「このクソアマ…!俺が可愛がってやれば、調子に乗りやがって…!」
組長、松野おそ松がギリギリと歯ぎしりする。
目に宿るのは、赤。
嫉妬の炎だ。
その声を聞いて、彼の妻は声を震わせながら深々と土下座する。
その目には、確かに涙が溜まっていた…。
「貴方、御免なさい…。もう二度とこの人とは会わないわ。許して頂戴…?」
松野婦人は、濡れた瞳を組長にぶつける。
擦り寄ろうとする仕草は艷やかで、旦那が落ちるのもわかるなぁ。
なんだか、テレビドラマ見てる気分。
と思ったら、ちょっと小腹が減った。
名目上、私は浮気された『可哀想な』嫁だし、好き勝手してもいいはず。
思えば即行動。
旦那に試食してもらう予定のフレンチラーメンだ。
コトコトとスープを煮込んで温まった所で、自分のぶんだけラーメンを用意する。
茶番劇を見るなら、何か食べたほうが楽しいしね。
ズルズルと音を立てないようにラーメンを啜っていると、組長がじぃーっとこちらを見ていた。
わぁ、やっぱ呑気にラーメン食べるのも駄目ー!?