第4章 今の自分にできること
息が苦しい。
そんなにたくさん走ったわけじゃないのに。
シルヴァが言った通り、目の前に長い吊り橋が見える。
橋のたもとに辿り着いても、シルヴァは来ない。
後から来るって言ってたのに。
あれは、もしかして、私を逃がす為に言ったことなの?
それに、脱走兵って何? シルヴァが脱走兵だってこと?
脱走兵なんて、悪い奴ばっかりだって、前に聞いたことあるけど、シルヴァは……。
シルヴァはそんなことない。良い人なのに。私を助けてくれたのに。
ジッと、シルヴァがいるはずの場所を眺めていると、段々と人影が近付いてきた。
「シルヴァ?」
やってきた人影の一つは、間違いなくシルヴァのものだった。でも……。
「何してる! 早く渡れ!」
まだ橋を渡っていない私に、シルヴァは大声で怒鳴った。
でも、そういうシルヴァこそ、あちこち傷だらけで。
「行けないよ。シルヴァを置いて、行けないよ!」
「早く行け! お前がいると、足手纏いなんだ!」
だって、置いてなんて行けないよ。そりゃ、足手纏いなのは分かるけど、でも、このままじゃ、シルヴァ殺されちゃうよ。
涙が溢れて、シルヴァの姿がよく見えない。
「一緒に行けなくて、すまない」
え?
いつのまに傍まで来たのか、すぐ目の前にシルヴァがいた。
「………っ」
名前を呼ぶ間もなく、シルヴァが私を吊り橋に突き飛ばした。
「行け! 絶対に振り返るんじゃないぞ!」
叫びながら、シルヴァが吊り橋の入口に立ち塞がる。
いくら鈍い私にだって、シルヴァが何をしようとしてるかくらい分かった。
でも、だけど、私にできることは何もなくて。
せめて、今の私にできるのは橋を渡り切るだけ。私が橋を渡れば、シルヴァもあそこから動けるはずだから。
私は必死に走った。
生まれてから今日まで、こんなに必死に走ったことはないと思うほど、一生懸命走った。
そして、橋を渡って振り返った、瞬間、シルヴァはロープで出来た吊り橋を、谷底に叩き落とした。
何で? 何でこんなことするの? 橋を落としたら、シルヴァが渡れない!