第6章 想いのかけら
その日の遅く、何処をどう歩いたかも分からないまま、私は何とか都に辿り着いた。
すぐに兄が駆け付けて、保護してくれた。けれど、私は数年振りに再会した兄を前に喜ぶこともできず、かと言って泣くこともできなかった。心が空っぽになってしまったように、涙が出ない。
後から聞いた話では、シルヴァは隣の国の脱走兵で、ずっと追われていたのだそうだ。
私は彼の逃亡に利用されただけで、だから哀しむことなんてない、とみんなが口を揃えて言っていたけど、私はそんな風には思えない。だって、利用するだけなら、あんな風に私を逃がしてくれるはずがない。
誰もが言う。
脱走兵の男と、お前とでは、住む世界が違ったんだよ、と。
本当にそうなの?
言葉を交わして、ほんの時々だけど笑ってくれて。
木の実を拾ったり、野鳥を狩ったりして、一緒にごはんも食べた。
住む世界が違うなんて、そんな言葉で全部片づけようとしないでよ!
* * *
私は、きっと、一生忘れないだろう。
落ちた吊り橋の向こう側で、まっさかさまに谷底に吸い込まれて行った彼の姿を……。
初めて知った、こんなに痛い想いを、彼と過ごした短い、でも大切な想い出を、きっと、ずっと忘れない……。