• テキストサイズ

a piece of memory

第6章 想いのかけら


 その日の遅く、何処をどう歩いたかも分からないまま、私は何とか都に辿り着いた。
 すぐに兄が駆け付けて、保護してくれた。けれど、私は数年振りに再会した兄を前に喜ぶこともできず、かと言って泣くこともできなかった。心が空っぽになってしまったように、涙が出ない。
 後から聞いた話では、シルヴァは隣の国の脱走兵で、ずっと追われていたのだそうだ。
 私は彼の逃亡に利用されただけで、だから哀しむことなんてない、とみんなが口を揃えて言っていたけど、私はそんな風には思えない。だって、利用するだけなら、あんな風に私を逃がしてくれるはずがない。
 誰もが言う。
 脱走兵の男と、お前とでは、住む世界が違ったんだよ、と。
 本当にそうなの? 
 言葉を交わして、ほんの時々だけど笑ってくれて。
 木の実を拾ったり、野鳥を狩ったりして、一緒にごはんも食べた。
 住む世界が違うなんて、そんな言葉で全部片づけようとしないでよ!

 * * *

 私は、きっと、一生忘れないだろう。
 落ちた吊り橋の向こう側で、まっさかさまに谷底に吸い込まれて行った彼の姿を……。
 初めて知った、こんなに痛い想いを、彼と過ごした短い、でも大切な想い出を、きっと、ずっと忘れない……。
/ 8ページ  
エモアイコン:泣けたエモアイコン:キュンとしたエモアイコン:エロかったエモアイコン:驚いたエモアイコン:なごんだエモアイコン:素敵!エモアイコン:面白い
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp