第3章 変転
脇腹の辺りが温かい。傷口に貼った薬草のせいだろうが……。
過去を振り返ってみても、自分の傷を他人に触れさせたことなんて一度もない。手当てさせたこともなかった。
なのに、サリアにはそれを許してしまった。
あんな小娘、俺の趣味なんかじゃない。どうして助けてしまったのかも、未だに分からない。
取り立てて美人というわけでもない。あんな子供っぽい娘……。
だがそれも、あと少しの辛抱だ。
都に溢れる人間達に紛れてしまえば、簡単には見つからないだろう。その気になれば、通行証だって偽造できる。
サリアからも解放される。
もう二度と会わずに済む。もう、二度と……。
* * *
そろそろ行くか。
俺は休ませていた身体を起こした。
「行くぞ」
声を掛けると、隣に腰を下ろしていたサリアも、すぐに立ち上がった。
「もうじき都だね」
「ああ……」
何気なく頷いて、ふと、視線を感じた。
振り向くと、サリアがじっと俺の脇腹の辺りを眺めている。
「傷、もう平気?」
「ああ」
その視線が、何となく居心地が悪くて、俺は目を反らした。
居心地が悪いはずなのに、嫌じゃない。不思議な感覚が俺を包む。
だが、次の瞬間、俺は更に別の、射すような視線に気づいた。
俺は咄嗟にサリアを背に庇い、腰の剣を抜き払う。
追手だ。
瞬時に俺はそう悟った。