第5章 わたしのなまえ
「何しに来た」
私を迎えたのは、露骨に敵意を剥き出した鳶色の瞳と刺のある言葉だった。
「ここはお前のいる場所じゃない。出ていけ」
真っ白な景色の中に浮かぶ要塞というに相応しい大きな同じ白色をした建物。それに相反する様な黒い門扉の前に彼は仁王立ちで立ちそう吐き捨てた。
ここは電脳空間。そして目の前に広がる要塞はORACLEだ。そのORACLEの守りべであるオラトリオと私は対峙していた。
Drカシオペアとの会話の後。少し1人になりたいと部屋へと下がった私はぼーっと霞む思考の中、気が付けばここにいた。
何かを考えていた訳ではない。
ただ、気が付けばここに……ORACLEの門の前に立っていたのだ。
「聞こえなかったのか? ここはお前の来ていい場所じゃない。今すぐ出て行かねぇなら侵入者として……」
「では私の居場所はどこにあるんですか……?」
オラトリオの言葉の尻を切るようにポツリと返す。
「現実世界にも、電脳空間にも私の居場所がない。なら、私の居場所はどこにあるの……?」
「何を言って……」
訝し気に私を見下ろすオラトリオに、私はもう1度「私はどこにいけばいいの?」と返した。
「身体は人間。脳はロボット。人間でもあり、ロボットでもあり……。人間でもなく、ロボットでもなく……じゃあ私は何? 人として不完全で現実空間に居場所がないのに、ロボットとしても不完全で電脳空間に居場所がないなら……じゃあ私はどこに行けばいいの!?」
ガッとオラトリオのローブを掴み、縋るように大きな巨体を見上げる。
「私は何? 身体は人のセト・##。電脳はA-B BUNDLE。二つもが1度は捨てられた存在。消された存在。じゃあ……じゃあ今いる私は何? 何の為にいるの? 何故息をしているの? 何故ここにいるの? ねえ教えてオラトリオさん。私は何? 私は何故存在するの?」
ねえ、教えて。とローブを掴んだ腕を前後に揺する。けれど私の力ではオラトリオの身体はピクリとも動かない。頭三つ分高い場所から鳶色の瞳が私を見下ろしてくるだけ。
オラトリオは何も答えない。否、はなから応える術を持っていないのかもしれない。