第5章 わたしのなまえ
「……私……私……今からORACLEを攻撃します」
ローブを掴んでいた手をブラリと落として言う。その言葉にオラトリオさんが「何だと?」と顔をしかめた。
「ORACLEを攻撃して……ハッキングします。情報盗んで誰かに漏洩させます」
「そんな事、本気で出来ると思ってんのか?」
「出来ます。私ならやれます」
「テメェ……」
ギッと目を向いたオラトリオさんを「だから」と見上げる。
「私を破壊して下さい」
「……は?」
「ORACLEに害をなせば私はORACLEを危険に晒す貴方の敵です。だから貴方は私を消さなくちゃいけない。そうでしょう?」
「そ、んなの。言わずもがなだろ。それ以外に何があると」
「だから消してください。今、ここで」
居場所がないなら、自分で作ればいいんだわ。“無”という居場所を。
「今電脳空間にいる私はある意味本体と言える存在。人間でいう脳。私が今ここで消えれば現実空間にいるセトも消える。脳が死ねば人間は生きていられないもの。だから……だから今ここにいる私を殺して下さい」
「……に言ってやがる。馬鹿な事を言うな」
「馬鹿な事? 何が。どこが? 貴方の守るべき対象を傷付ける物なのですよ私は。今排除せずいつ排除なさるの?」
「そんな気さらさらない癖にめったな事言ってんじゃねえよ」