第5章 わたしのなまえ
・19××生まれ。推定年齢は7歳。ペンガル養護院より19××年××月に当研究所にて引き取る。
・持病無し。健康状態、良好。多少言語能力に遅れがある様だが、研究対象者として問題なし。
かかれていた文字列に目をすべらせながら「これは?」と掠れた声で問う。言葉はすぐに返ってくる。
「エリオットと一緒に研究に携わっていた研究員が書いたレポートよ。その研究員は先の爆発で亡くなっていたのだけど、そのレポートは彼の実家に残されていたの」
「レポート……」
レポート? 何の?
そんな事、問うまでもない。これは……これは、私の……。
19××年××月××日。
本日は検体の血液検査並びに金属に対してのアレルギー反応がないかの検査が行われた。状態は良好。
19××年××月××日。
検体に使用される電脳を選ぶ。何故かDrは新しく作らず以前失敗作として凍結されたA-Bの電脳を使うと仰った。
仕方がない、A-BはDrが一番に丹精を込めて制作なさっていた物だ。そして失敗作でもある。何か思うところがあるのだろうか。
あの方が“愛着”という言葉をご存知なのかは甚だ疑問だが。
19××年××月××日。
検体が感染症を発症。マラリアによる高熱の為一時研究を中断し治療に専念せよとの指示だ。だからあれほど予防接種を受けさせるべきだと進言したのに。
19××年××月××日。
熱は下がった様だが検体の意識が戻らない。相手はまだ7つの子供だ、もしかしたらこのまま……。
19××年××月××日。
検体の意識が戻らぬままだが研究を再開する事になった。いや、だがこの後の事を考えればこのまま意識が戻らない方があの子の為なのかもしれない。無闇に怖がらせる必要などないのだから。
19××年××月××日。
本日、検体の脳摘出手術並び人間に対する電脳の適応研究の最終実行日だ。
検体は意識が戻らないまま人生を閉じる事になる。7年だ、たった7年。
わかっている、これは人道に背いた行いだ。だが、私の研究者としての探究心は止められなかった。
セト……セト、1度でもそう呼んでやればよかった。
すまない、セト。せめて今彼女がこの世で一番幸せな夢を見ている事を願うばかりである。