第5章 わたしのなまえ
「…………」
その日の目覚めは最悪だった。
乾燥地には珍しく降った雨のしとしととした音のせいもあったかもしれない。けれどそれ以上に今見た夢の内容があまりにも……。
「私が……Aナンバーズ?」
ゆっくりと起き上がり、両の掌で顔を覆う。
今のは夢?
いえ、夢の筈がない。機械の私が夢を見る筈がない。
と言うことは。
と言うことは?
今のは私の記憶? この電脳の記憶だということだろうか。
でも身体は人間。寝台に横たわって目をつぶって意識を休める事を眠る事だってD.rは言っていた。眠っている時にまるで起きている時の様なイメージを体験する事を夢だって。という事はあれは夢……なのかしら?
「あの人、何も夢の中にまで現れなくたっていいじゃない」
光を裂いて現れたのは既に私の天敵になりつつある彼。現実と同じ様に険しい顔付きでこちらを見下ろして「誰だお前」と問い掛けて来た。
「誰だお前、だなんてそんなの知りたいのは私の方なのに」
不意に漏れた嘲笑い似た微笑。
私が知っているのは目が覚めてからの時間。一年にもみたない時間。
D,rと過ごしたのは半年も満たない期間。音井家では要約ひと月経つか経たないか。
目が覚める前の記憶はない。
誰だお前と問われたら〝私は#Name_1#〟としか答えられない。
「けど夢の中の私はハッキリ彼に言っていた。私がA-B BUNDLE〟だって」