第5章 わたしのなまえ
歌が聴こえる。
優しくやわらかな__声。
真っ暗な闇の中。右も左も前も後ろも自分の姿さえもわからない場所で。ただ頭上から照らす一筋の光が私がその場に存在する事を教えてくれたの。
その光を見上げながら、私はただただその暗闇の中立ちすくんで時折聴こえてくるその歌声に耳を澄まして。
何故その場所にいるのかとか、自分は誰かなのかとか全然わからなくて。ただその場にいて、ずっと歌声を聴いてたの。
ずっと、ずっと、ずーっと。
でもいつだったか。その歌声を聴くだけでは我慢ができなくなって、光の先へ向かおうとした事があった。
水の中を泳ぐ様に足をばたつかせて空へ飛び上がるみたいに手を伸ばして。
光の元へ近付いているのかわからなかったけれど、何も考えずに無心で進んだ。
ふと、指先くらいの細い光が突然左右へ揺らいでパァンッと音をたて目の前で弾ける。弾ける瞬間光線の様な眩い光に顔を多い目をギュッと閉じた。
暫くそのままの状態で動けずに蹲る様にその場へ立ち止まっていると、不意に細く開いた目はしに人影を捉える。同時に「誰だお前は」という言葉が耳に届き
それに「え」と弾かれた様にそちらへと視線を向けるとそこには__。
私の少し頭上を漂うように立つその姿。丈の長いローブ。そのローブの裾先から上へと視線を流して行く。
細い顎先を通り過ぎ、形のいい唇、そして高い鼻。その次に現れたのは切れ長に象られた目元に、まるで指輪にはめられた宝石の様に輝く綺麗な鳶色の……瞳。
「お前は、誰だ」
「ワタシ……は」
ワタシ。
ワタシハ……。
ワタシハエーナンバーズ………。
Aナンバーズ。
Aナンバー……A-B BANDLE……__。