第2章 出会い
歌が聴こえる――――
綺麗なテノールで響くその声は優しく、私の鼓膜を刺激する。
まるで子守歌の様な……
私、この声を知ってる。
そう、この声は……
目を開けると視界に映る白い天井。
最初それが何かと理解出来なくて何度か目を瞬かせ、ぐるりと視界を辺りに巡らせた。
約六畳程のその部屋には、私が今身を横たえているベッドの他に木製の机、ラタンのチェストというそんな質素なインテリアの部屋だった。
見たことのない部屋だ。
気だるい身体を叱咤して半身だけ起こす。それと同時に眼前の扉がガチャリと音をたて開かれる。
「あ、起きた?」
扉の隙間からひょっこりと顔を覗かせたのは、太陽の様な笑顔を携えた綺麗な漆黒の髪と目の少年だった。
「母さーん! あの子起きてるよ!」
少年の顔が消えたかと思うと、扉の向こうから誰かを呼ぶような声が響く。一頻り「母さん」だの「父さん」だの叫んだ後、また少年がひょっこり顔を出しタタタと此方へ走り寄ってくる。
「ね、気分はどう? お腹減ってない?」
「え……?」
「お姉さんずっと寝たきりだったんだよ。どれくらいかな……んーと、半日くらい。お腹空いてない?」
くりくりとした大きな目で私を見上げながら訊ねてくる。それに私は軽く首を傾げ「いいえ」と一言言葉を返した。
「そっか。あ、俺は音井信彦。お姉さんはなんてゆーの?」
ベッドの脇によいしょと腰掛けながらもう一度訊ねられる。
名前? 私の名前?
「私は……#セト#」
「#セト#さんかぁ。あれ、じゃあ#セト#さんって日本人じゃないの?」
「何故……?」