第4章 A-Cという男
何故かその扉の先がAナンバーズの情報機関だと電脳が訴えてくる。
そして「パスワードは……」と頭で考えるより先に、私の指先が扉に掲げられた電子掲示板にそっと添えられ、パスコードを打ち込んでいく。
そう、まるであたかも初めから知っていたかのように指先がナンバーキーの上を滑り、Enterに触れると同時にピーッと機械音が鳴り扉が開かれる。
それに驚いたのは他でもない、私自身だ。
「なんで私……」
ぱちくりと瞬きを繰り返しながら自分の指を見つめる。
「なんで私パスコードを知っているの……?」
「そりゃ俺が聞きたいね」
「……っ?」
突然前方から声が聞こえて顔をあげると、開かれた扉の先には……。
「オラトリオ……さん」
何もない真っ白い部屋の中。
中央に置かれた黒塗りのソファーに足を組んで腰掛けるオラトリオはしてやったりと意地悪気な笑みを浮かべ私を見据えていた。
そんな彼に、私は半ば嫌そうに眉根を寄せながら「やっぱり嫌な人ね」と口許に微笑みを浮かべ吐き捨てる。
「早かったですね。いつから気付いてました?」
「お前がこの部屋の前にたどり着いた位だな。恐れ入ったぜここまでこの俺から隠れきるたぁな。誰の入れ知恵だ?」
さぁ? 誰かしら。そう言って肩を竦める。
「でももう少し時間を稼げる自信はあったんだけど。何故気付かれたのかしら」
「オラクルはハッカーにゃあバカみたいに反応するからな。それが攻撃じゃなくても侵入しただけでも過敏に反応する」
だろう? とオラトリオが頭を振れば、彼が座るソファーの後ろからスッとオラクルが姿を現した。彼の顔は何処と無く怖れたようにひきつっている様に見える。
「ごめんなさいオラクルさん、貴方を怖がらせるつもりはなかったんです。本当に」
素直に謝罪の言葉を口にするけれど、オラクルは何も言わずオラトリオの背後から動かない。また警戒させてしまったのね。
そんなオラクルに、オラトリオは「大丈夫だ」と声をかけながら私へと視線を戻す。
「それで? ここに何の用だ。ちーっとやり方が悪かったからな、そうそうな答えじゃ返してやんねーからな」
オラトリオが手に持った杖を一振りすれば、私の背後の扉がバンッと音をたて閉まる。そしてそのまま消えてしまった。