第4章 A-Cという男
上を見上げれば遠く、微かに光る球体を確認出来る。その球体は今私が通った現実世界とこの世界を繋ぐ入口。パチンッと指先を弾けば、その球体は流れる様に姿を滲ませ消えていく。
続いて反対の指を弾けば、今度は足下に陽炎の様な歪んだ空間が生まれる。そのままその陽炎は足下から腰・頭へと上昇してスッポリと私の体を包み込む。これが先程作ったスモッグウィルスだ。
陽炎に包まれて滲んで見える掌を握ったり開いたりを繰り返して状態を確認する。
動き、正常。着力、正常。
準備は完了。
よし、と頷いて私は足元に見える白い要塞とも呼べる建物に視線を落とした。
手に入れるのはA-Cの情報だけ。他に見向きをしちゃダメ。制限時間は10分。
もう一度、今度は深く頷くと私は建物に向かって下降した。
ゆっくり、ゆっくり。
ゆっくり下降していき、爪先が建物の屋根部分に触れる。するとまるで水に浸かる様に爪先がずぶり、と壁をすり抜けていく。
爪先、太股、腰、肩、首、頭。そして全身が壁に飲み込まれて行く。
トッと軽やかな音を立て足元に固さを感じて瞼を開けば、眼前に拡がる広大な本棚。ORACLEの情報機関の中枢だ。
「進入成功」
ポツリと呟いてキョロリと辺りを見渡す。
「わかってたけどすごい量ね。10分で見つかるかしら」
正規のページなら検索かけられるから楽なんだけど。なんて言っても仕方ないわよね。
「えーっと、多分閲覧順に考えるのであれば……」
くるりと踵を返しながら本棚を見上げる。
「Aナンバーズならもっと奥の方になるはず」
コツ、コツ、真っ白な部屋に私の足音が響く。その足元は黒い影のような物が被い、私が歩く道を滑るように後からついてくる。
暫く進むと、真っ白な壁にポツリとまるで張り付けたような小さな扉を見付ける。扉と言ってもそれは格子の様な形をしていて、見様によっては牢獄の入り口の様で。
「これね」