第4章 A-Cという男
『それで、どうだったの?』
『彼女の言う通りでしたよ。見ますかCT写真』
ガサガサと何かを紙袋から出す音が聞こえる。そして次いで聞こえたのはみのるさんの啜り泣く声だ。
『こんな事って……』
『脳の一部だったら何かしらの望みはかけられたそうですが、残念ながら全摘出をした上での……だったそうです』
『#セト#ちゃんは? この事を知っていたの?』
『……ええ。驚く僕たちとは違って冷静なものでしたよ彼女は』
病院でされた検査はCT、血液検査、そして全身のレントゲン撮影だった。
検査をしてくれたお医者様は全員正信さんの知り合いだそうだからきっとどんな結果であれ部外に漏れることはないだろう。私にはそれが唯一の救いだわ。
『彼女は目覚める前の事は何も知らないそうです。それこそ自分の出時も電脳と体の持ち主も』
『じゃあ本当の脳がどこにあるのかも?』
『ええ。多分Dr.クエーサーの研究所ごと燃えてしまったんじゃないかと』
正信さんがみのるさんに話している事は今日私が話した全て。事実。でも一つだけ。ただ一つだけを除いては、だけど。
『#セト#ちゃんは叔父様と一緒に研究所に暮らしていたんでしょう? 見た人はいなかったのかしら。叔父様は人嫌いな方だったけれど数人は助手がいたから#セト#ちゃんの存在を知ってる人はいたはずよ』
『そちらは今カルマに調べてもらってます。けど、事が事ですからね、知っていても簡単に口を割るかどうか。簡単に言っちゃえば犯罪スレスレですからねぇ』
『そうね……そうだわ。叔父様は研究者としてやってはならない事をしたんだわ』
「…………」
何故? みのるさんもオラトリオと同じことをいう。Dr.が間違った事をしただなんて何で無関係な人がそんな事言えるの?
だってDr.がいなければ今ここに私はいなかったのに。
……やめよう、思うだけ無駄だわ。私は今自分のなすべき事をすればいいの。みのるさんが何と言おうと正信さんが、オラトリオが何と言おうとも。
でも、そうね。A-Cの事は解決しておかなくちゃならないわ。多分。危険。
私はそのまま踵を返すと水を飲まずにダイニングを出る。
足は自室ではなく、音井博士の研究所へと向けた__。