第4章 A-Cという男
「確かA-CはA-B.BUNDLEのサポート機として製作されたんだったわね。でもA-Bは制作中にハッカーのウィルスに感染して自己崩壊を起こし暴走、凍結。今A-CはA-Sシグナルのサポート機として起動してるとクオーターに教わった」
そう、教わっただけ。どんな機体でどんな風に何の為に作られたか。そう教わっただけ、会った事もないのに何故私は彼を怖いと思うのかしら。私の電脳には彼を恐れるメモリーは何もないのに。
「考えれば考える程意味がわからなくなってくるわ」
ふぅ、と小さく息をついて頭を抱える。
どうしよう、どうすればいいの。そんな言葉ばっかりが浮かんでくる。こんな事ならもっと自分の事についてDr.に聞いておけばよかった。
「何故Dr.は私をお造りになったのかしら」
私はDr.にとっては長年の夢だったとおっしゃっていたけど、人間の脳を機械に造り変えることがそんなに難しい事? 心臓移植があるくらいだもの、脳移植も出来るのではないのかしら。
それとももっと別の目的が……。
「……少し休憩しよう」
もう一度、今度は深い溜め息をついて立ち上がる。
自室を出てから水でも飲もうかと一階のダイニングへと向かう。その道すがらリビングに明かりがついてるのに気付き、足音を忍ばせてそっと扉に歩み寄った。
扉の透き硝子から見えた正信さんとみのるさんの姿。二人は神妙な顔付きで向かい合いソファーに腰掛けていた。
「起きてたんだ……」
時間も時間だし音もしないから寝たと思っていたのだけど。でもあんな怖い顔して何を話しているのかしら。
私はダイニングへと回ると、音をさせないように扉を開いた。
リビングとダイニングは一つのドアで仕切られているけれど薄いからリビングの音は微かながらに聞こえてくる。