第3章 何故人は泣くのかしら?
微かに身体を揺さぶられる感触に重たい瞼を開けば、眼前に広がる見慣れた天井に小さく息をついた。
私……私は……。
ゆっくりと上体を起こせば、機械の動作音しかしない静かな研究室にギシリと寝かされていた台の軋む音が響いた。そして横から「大丈夫か?」と顔を覗き込んで来るパープルの瞳と視線があえば、ポツリと私の口から漏れた言葉。
「私は……知っている? アレを知っている……」
「え?」
あの人が持っていた刀を怖いと感じたのは、私がアレを知っているからだわ。
あれは何? 私の知らないあれは何かしら。
あの刀を持っていた人は誰?
「刀への恐怖が強すぎて持ち主に気を張るのを忘れていたわ。あの人は誰?」
独り言のようにポツリポツリと漏らす言葉。それをシグナルさんは黙ったまま聞いている。
「あの人は誰……? 私は知っているわ。だけどわからない。何故?」
シルバーピンクの髪をした……男性だった。着物のような服を着ていて……。
電脳の中のメモリーからその特徴に該当する人物を割り出していく。最初は五人、三人、一人。出たのは……。
「A-C.CODE。Aナンバーズの中でも最古参のナンバー」
その名前が導き出されると同時に、何故か大きく高鳴った心臓。それは一度ではなく、二度三度ドクリと音を立てた。