第2章 出会い
「ハァハァハァ……ッ」
狭い路地裏で私のあがった息と走る足音が響き渡る。
薄汚れた布を頭から被り、辺りを警戒しながら走り続ける。
──私じゃない
──私のせいじゃない!
私の脳内を駆け巡るただ一つの言葉。
──逃げなきゃ
──逃げなきゃ!
──もし捕まったら私はまた……
「あっ……」
前を見る事だけ考えていた為か足下への注意を散漫してしまい、落ちていた缶クズに足をとられ私は悲鳴に近い声をあげてその場に身体ごと倒れ込む。
「う……」
痛みに顔を歪めながら起き上がる。一番痛みの酷い足に視線を向ければ転けた表紙に肌を擦りむき血が滲んでいた。
「つっ……」
触れると鈍い痛みが走り眉間にシワが刻まれる。
「本当に人の身体って扱いづらい」
チッと舌打ちすると、頭から被っていた布の先を引き破り、傷口を覆う様に結ぶとビルの壁に手をついて立ち上がる。
大丈夫、まだ走れる。
ズキリと痛みが増していく足を一目してゆっくりと歩みを再開させた。
逃げなきゃ。とにかく今はこの場所から逃げなきゃ。
私の頭の中はただその言葉だけが巡る。
遠くへ、遠くへと自らを追う様に。
暫く路地を走り抜けると大きな広場へと辿り着く。
広場の真ん中には大きな噴水があり、それを囲うように建ち並ぶ屋台。そしてその屋台の前で笑顔で美味しそうな食べ物を頬張る人達。
ここはダメ。今の私じゃ目立ってしまう。
来た道を戻ろうと踵を返した瞬間、背後にいたであろう何かに勢いよくぶつかってしまい、その拍子に後ろに引かれる様に尻餅をついた。
「見つけた」
低く静かな声が私の耳に届く。私はバッとその声の主を見上げる。
白い布で目元以外を覆った巨漢を目で捉えると「クワイエット……」と震える声でその男の名を口にした。
「いや、近寄らないで……」
倒れたままの状態でずるりと後ろに後退する。
クワイエットはそんな私を何の感情もこもらない瞳で見下ろしながらスッと手を伸ばす。
「研究所に戻ろう。外は危険だ」
その伸ばされた手をパンッと叩くと「嫌よ」と叫ぶ。