第1章 始まり
耳から入る情報と頭で理解する速さに多少の違和感を覚えながらも言われたとおりに寝台の上から地へと足をつく。
けれど足は冷たいコンクリートを踏みしめきれず、支えを失った私の身体はガクリとその場にへたりこんでしまう。
「なんだ、立てないのか?」
Dr.が上から見下ろしながら訪ねてくる。私がコクリと頷き返事を返すと、自分の顎を指でさすりながら彼はもう一度も「ふむ」と頷いた。
「まぁ十年も寝たきりだった身体だ仕方がない」
Dr.は私の身体を軽々と抱き上げると寝台の上に座らせてくれる。
「暫くリハビリすればまた立てるようになるさ。それまで車椅子でも用意させよう」
「すみません……」
小さく謝罪の言葉を口にすれば、Dr.はクツクツ独特な笑い声をもらす。
「それぐらい構わんともさ。お前が起動したと言うことだけでもわしにとっては大いに喜ばしい事だからな」
するりと顎に皺だらけの指先が添えられ、クイッと上へと惹かれる。
「人間学とロボット工学の融合……往年には叶わぬだろうと思っていた夢がまさか叶うとは……ククク」
「人間学とロボット工学の融合……?」
「あぁそうだ。人であって人ではない。だがロボットであってロボットではない。……人はそれを人造人間と呼び忌み嫌った」
人造人間……
それは私の事ですか?
「Dr.は私がお嫌いなのですか?」
ふと思った事を問い掛ければ、Dr.は高らかな声をあげたのだ。
「嫌い……そうだなぁお前はわしの初めての失敗作であり未知の成功作でもある。事の次第によっては好いてやらんでもない」
「……わかりました。では気に入って頂けるよう精進致しますわDr.」
にこりと頬を持ち上げそう言えばDr.の笑い声は一斎に高くなった。
──────