第3章 何故人は泣くのかしら?
ガチャリ、重い音と共に扉を開けば、沢山の数台のPCやら何本ものコードが繋がれた機械等が視界に飛び込む。その間を縫うように置かれたチェアーにオラトリオは大きな巨体を預け、顔には一冊のファイルを開いた形で置いていた。
眠っているのかしら? ふと思ったけれど、機械が眠るはずないとすぐにその考えは思考の隅へと追いやる。
少しずつ近づくにつれ、オラトリオの胸元のジャックにいくつかのコードが繋がっているのを見つけた。
メンテ中かしら? 教授は見当たらない様だけど……。
きょろりと辺りを見渡すけれどオラトリオ以外には誰かがいる気配はない。自己診断フロー?
首を傾げながら繋がれたPCの画面を覗きこんだその時
「何の用だ」
そんな問いかけと共に手首を掴まれ、私は驚きの悲鳴をあげる。
「きゃっ……」
ファイルの先から覗く鳶色の瞳がじっと私を見据えてくる。
「研究者の私有地ってのは関係者以外立ち入り禁止だぜ。クエーサーに教わらなかったのか?」
「こ、ここにいる事は正信さんがご存じです!」
ギュッと強まる手首を包む力に「痛いっ」と批難の声をあげるけれど、それは弱まる事を知らずなおも私に痛みを与えてくる。
「言ったでしょ! 私は貴方にもORACLEにも音井の人達にも何もしないって!! なのに何でこんな事するんです!?」
「何故? そんなの決まっているじゃないか。俺がお前を信用していないからさ」
「だからってこんなっ……い、痛いっ……」
この人ちゃんと自分の力配分わかってるの? いくら私でもこんな力で握られちゃ腕折れちゃうわ!