第3章 何故人は泣くのかしら?
「そう言えば、ATRANDAM探索はどうだった信彦?」
隣でテーブルに並んだ美味しそうな料理に目を輝かせていた少年に問いかける。私の言葉に信彦は「ん~」と苦笑をもらすと「楽しかったよ」と言葉を続ける。
「そのわりには浮かない顔ね」
「まぁ仕方ないわよねぇ、ガイドがあれじゃ」
クリスさんが綺麗な曲線をした顎でクイッとパルスを指し示す。パルスさんが? と首をかしげる私にクリスさんが肩を寄せながら「あいつさぁ」と続ける。
「あちらを御覧ください、なんて様になった案内をするのはいいんだけどぉ」
「はい」
「建物の名前なんて一っ言も説明せずに、ただひたすらあちらを御覧ください、建物です・建物だ・としか言わないわけ。あんなんじゃ探索にも観光にもなりゃしないわよ」
「あらら……」
「結局研究所内でお茶して終わり」
「そうなんですか……」
残念だったわね、と信彦の頭を撫でていると彼が「ごめんね」と漏らす。
「次は俺が#セト#姉ちゃんを案内してあげるって言ったのに」
「いいのよ。またいつでも行けるもの」
「うん……」
「今度は私と一緒に探索に行きましょう? お互いわからない方が反対に楽しいかも」
迷子になっちゃうかもだけどね、と笑えば、信彦も小さく笑い声をもらしてくれる。
「あ、そういえば」
「どうしたの?」
「オラトリオは今どちらへ?」
「オラトリオ? なら地下の研究室にいるとおもうけど」
「研究室ね、ありがとう信彦」
ガタリと立ち上がりリビングを出ようとする私の背に正信さんの呼び掛ける声が届く。
「#セト#くん?」
それに軽く振り向いて「もう大丈夫です」とだけ返して地下へと向かった____。