第2章 出会い
だから今日は私の代わりに先に見学してきて、と言えば彼の顔がぱぁっと笑顔に変わる。それを見て私からも笑顔がこぼれた。
「うん! じゃあ約束」
スッと差し出された小指に自身の小指を絡ませる。
「ええ、約束ね」
シグナル達と出掛けていく信彦を見送ってから、キッチンに残った洗い物を片付けていく。いつもカルマがやってくれてるから、たまには私がやらなきゃ。
みのるさんと正信さんもアトランダムへ行ってしまって、音井博士もカシオペア博士と出て行ってしまい家の中には今私だけ。
一気に静かになった家のなかで、流水の音だけが響く。いつものパルスとシグナルの兄弟喧嘩というなのじゃれあいも今はない。
「よし、終わり」
最後の一枚のお皿を拭き終えて棚になおすと、ふぅと一息ついた。
出掛け際にカルマが用意してくれたティーセットをリビングに運ぶとドサリとソファーに腰をおろした。
「一週間……か」
音井家に身を寄せて一週間。そろそろ身の振り方を考えなければ。
みのるさんも正信さんも、音井博士も何も言わないし何も聞いてこない。私が初めてここへ来た時に名前とどこから来たのか、年齢はいくつかを聞かれただけ。
ただそれだけで、いく宛がないと言った私に彼らは部屋と衣服を与えてくれた。けど……。
「あの人達が私を見逃すなんてありえない。きっとまだ探しているはずだわ」
この一週間出来るだけ外に出ないようにしているけど、この音井家はアトランダムの研究施設と同じ敷地内にある家だもの。見付かるのも時間の問題だわ。ううん、むしろ既に見つかってる可能性だって。
「迷惑をかける前に違う場所へ逃げなきゃ……」
「逃げる? どこへだ」
「!?」
ポツリと呟いた一人言に返事が返って来て、私はばっと声のした方へと視線を向けた。リビングと廊下をつなぐ入り口に人影を見つけ、私は驚きに目を見開いた。
「オラトリオ……さん?」
そこにはさっき確かに信彦やシグナルと共に出掛けて行った筈のオラトリオの姿。
彼は驚きに半ば固まる私にゆっくり近付いてくると、向かい合わせる様に立った。そして少しだけ腰を落とすと、私の肩越しにソファーへと手をつく。