第2章 出会い
階下に降りると音井家の人達の他に見知らぬ人がいた。
カルマに差し出されたお茶を優雅な手つきで口に運ぶ初老の女性。細身の身体を包む白いローブは電脳集団アトランダムの研究員が身につける制服だった。
みのるさんや音井の博士に向けられる優しい笑みが彼女の人となりを表している。
確かこの人は……。
まるで手に収まる手帳の中身を確認するかのように私の脳内の記憶回路が彼女の顔を検索し始める。0.03秒の早さで出てきた詳細がポツリと口をつく。
Dr.カシオペア。電脳集団アトランダムの研究者を纏める総帥であり、創立者の娘。何故こんな所にいるの?
「あれ? おはよう」
リビングの入り口で立ちすくんでいた私に気付いたシグナルが「よぉ」っと片手をあげる。それを合図としてリビングに集まった人達の視線が一斉に私の元へと集まる。その中にはオラトリオもいて……。
「おはよう、ございます」
一度に集まった視線に少しだけ居心地の悪さを感じつつ、Dr.カシオペアにペコリと頭をさげてからキッチンテーブルに用意された朝食の席につく。私の左隣には信彦が座っていた。
「おはようございます、よく眠れましたか?」
「おはようございますカルマさん」
カルマからハムエッグの乗ったお皿を受け取りながら「ええ」と頷く。
今日の朝食はバターロールのパンとハムエッグ、サラダにミルク。美味しそう。
頂きます、と手をあわせてフォークを手に取ったと同時くらいに信彦が「あ」と手を叩き声をあげる。
「そうだ#セト#姉ちゃん、今日シグナル達とアトランダム見学行くんだ。姉ちゃんも行く?」
「アトランダム見学?」
「うん、パルスが案内してくれる約束なんだ」
クリス姉ちゃんも行くんだよ、と笑う信彦に私はうーんと考えるそぶりを見せる。
アトランダム……今更見学しなくても隅々まで施設内は把握してるし。大体私はあそこから逃げて来たんだもの。わざわざ身を危険にさらしたくないわ。
「ごめんなさい、今日中に読んでしまいたい本があるの」
「そっか……」
本当に残念そうに方を落とした彼に、少しだけ罪悪感を感じさらさらとした黒髪をそっと撫でてもう一度ごめんねと言った。
「でも今度は一緒に行きましょ。その時は信彦が私を案内してくれる?」