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ツインシグナル成り代わり夢(オラトリオ落ち)

第2章 出会い


「なんだぁ? まだ誰も帰ってないのか」

 リビングと玄関に続く廊下を繋ぐドアが開かれ姿を現した長身の影。鳶色の目できょろりと辺りを見渡しながらダイニングチェアに腰掛ける私の方へと歩んでくる。

「信彦とカルマはキッチンにいます」

 先程二人が去って行った方向を指差しながら呼びかけると彼――オラトリオは部屋から私へ視線を向け「そうか」と返しながら私の向かいに腰を降ろした。

「で、お前さん一人残ったって訳か」

「みのるさんと正信さんは午後20時に戻ると言ってました。そろそろだと思います」

「音井博士は?」

 音井博士……信之介博士の事かしら?

 信之介博士は信彦の祖父。彼も高名なロボット工学者だ。私も知ってる程の。

「プロフェッサーは今日は研究所から戻られないとお伺いしてますが」

 ペラペラとまるで手帳を読み上げる感覚で聞かされていた皆の今日の予定を言い列ねてると、オラトリオにじーっと見られている事に気付いてグッと口をつぐむ。

「なん……ですか?」

  眉をひそめ問えば、彼は体勢をそのまま「いや」と軽く答える。


「お前さん、確か記憶がないだとか言ってたよな」

「はい」


 ここに来てまず聞かれたのは自分の事。名前、生まれ、家族に年齢。その中で私が答えたのは名前と年齢だけ。

 名前は#セト#、ファミリーネームはわからない。歳は17。でもそれはDr.からもらった情報。この"身体"の情報だ。


「みのるさんに話した事が私の全てです」

「……の割には記憶力がいいな。まるで俺達ロボットみたいに」

「それは……きっと今何もないから。私には何もないから」


 それは嘘じゃない。現に今の私の電脳には目が覚めてからの記憶しかないのだから。

 まずDr. に教え込まれたのは人としての知識。人間は食事をとる。お風呂に入る。睡眠もとる。最初はそれに何故か違和感があって慣れなかった。

 一度Dr. に何故クワイエットやクイックは食事もとらないしお風呂にも入らない、眠りもしないのに私はそれをしなきゃいけないのですかと問い掛けた事がある。

 そしたら彼はこう答えた。

"お前はもうロボットではないのだから当たり前だ"と。

 
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