第1章 1
「結婚する気になったのか!って喜んでましたよ」
意地でもお見合いやパーティ等に出席しないらしい。そんな彼が行く気になったのだ、相手に気があるとしか思えない、とまで彼の言葉を告げる。ふと目が合ったかと思ったら目を細めた上司が「やれやれ」と顔をすくめ両手を上げる。何故か私が馬鹿にされた様な気がした
やれやれ、の言葉の意味もだれに向けてへのなのかも分からず、時間だという上司を見送り、私は仕事をはじめた。
時間は日付を跨ごうとしていた。
「こんな量終わるか...」
上司が来る前の量なら今日中には頑張れば帰れる量だったのだ。更に積み上げていった書類のせいでこの時間になってしまった。今日中に終わらせたい書類があると言っていたがどれがその書類かわからず、むしろ積まれた全てがそうなのと錯覚を起こし帰るに帰れずにいた。
もう一度顔を出すと言った上司も結局は日付が代わろうが来る様子はなく、普通に考えたら有り得ない話しだったのだ。今頃お見合い相手とよろしくやっているに違いない。謎の喪失感を疲労のせいだと言い聞かせ内心で上司に悪態をつく。彼は音もなく気配もなく現れる、もしまた急に現れて聞かれでもしたら...
「......帰ろ」
そこで、私はまだ彼が来ると思っている自分にびっくりする、今日中に終わらせたい仕事もたぶん、大佐が昼間来た時に終わらせたいはず。この追加分は嫌がらせだと何となく分かっていた。
それでも、もう一度来ると言った彼を待つ理由をこじつけるみたいに仕事し続けていた。きっと有能な部下云々の小さいな嫌味に反発したかったんだと更に理由をこじつけ考える事を止めた。キリのいいところで仕事を終え、帰宅の準備をはじめた
「おや。まだ仕事は終わってませんよ。」
ドキリ。昼間と同じ突然の声にビクリと肩を揺らし振り返ると昼と同じ正装した上司がいた。ネクタイを解きだいぶ楽にに着崩しているがそれすら様になるこの男。
「急ぎじゃないで明日やります」
「なら何故この時間まで?」
「...すいませんね、有能な部下じゃなくて」
終わりませんでしたよ、と昼間の嫌味に投げやりに返答する。勿論彼も終わるとは思っていなかったらしくニッコリと笑い、そんなの知っています。と嫌みったらしく返す。ムカつく。