第5章 近づく心
コンコン
鳴るノックの音に、アイリーンは気づかない。
というか、気づけないでいる。
コンコンコン…
先程よりも強くなるノック音。
アイリーンは少しだけシャツの裾を伸ばそうと、力を尽くしている。
伸ばしたい…
でも人の物を勝手にいじることなんてできない…。
でも伸ばしたい!
そんな葛藤に一人悶えていた。
………ガチャ
「おい、もう上がったんだろう。いつまで…」
「……え」
返事のない事に苛立ったのか、リヴァイは躊躇うことなく脱衣所の扉を開けた。
そこには、鏡の前でシャツを捲ったり伸ばしたりを繰り返す、悩まし気な表情をしたアイリーンの姿。
(………無防備すぎる。)
(………無防備な姿見られたぁぁ)
お互い一瞬目が合うと、さっとそれぞれ目を逸らす。
顔を真っ赤にさせて俯くアイリーンを、自分も顔が熱いことを自覚しながらリヴァイはちらっと見た。
自分でシャツを貸しておいてなんだが、自分自身によくあの服を貸した。
と褒めてやりたい気持ちになって、その思考に自らツッコミを入れる。
(馬鹿なこと考えるんじゃねえ。気持ち悪い)
コホン、とリヴァイは一つ咳払いをすると、未だに顔を上げられないアイリーンに背を向けた。
「……早く出てこい。飲み物と少しだが飯がある。食べておけ」
いつもより少しだけ早口でそう告げると、リヴァイはパタリと扉を閉じた。