第5章 近づく心
自分の使っていた毛布を手に取り、忍び足でゆっくりと近づく。
起こさないように、ゆっくりと。
少しだけ小さく聞こえる、リヴァイの寝息。
安心して眠るその姿は、たまに見かける険しい顔とはまったく違い、少し可愛らしささえ伺える。
あまりジロジロ見ていてはいけない。
そう考え、アイリーンはゆっくりと手に持っていた毛布をリヴァイの体へと掛けた。
その時。
「………なんだ。」
さっきまでピクリともしなかった、形の良い薄い唇が動いた。
その唇から発せられた言葉は、寝起き特有の少し乾いた声。
突然のその低い声に、アイリーンは掛けている途中の体制のまま、体を硬直させた。
「……えっと、起こしちゃいましたか?」
えへへ、と顔に必死に笑顔を張り付ける。
本当は引きつった笑いにしかなってないのだが、アイリーンは自分の心の動揺を悟られないようにと必死だった。
(いきなり起きるから、心臓飛び出そうだった……!)
目の前で引きつった笑みを見せるアイリーンに怪訝そうな顔を作りながら、リヴァイは体を起こす。
そこで初めて、自分にアイリーンが毛布を掛けている途中だったのだと気づいた。
自分がソファで、毛布もなしに寝ていたから心配したのか?
アイリーンの持つ毛布を、リヴァイは見つめてそのまま手に取った。
「……心配かけたな。だが気にするな。」
「は、はい。」
リヴァイは手に持った毛布をくるくると丸めると、そのまま両足を床につけ立ち上がる。
「昨日はよく眠れたか?」
洗面所に向かいながらそう問いかけると、アイリーンからはい。と昨日よりも元気そうな声が返ってくる。
その返事に満足したのか、リヴァイはアイリーンの見えない所で少しだけ笑みを作る。
「そうか、ならいい。」
それだけの言葉を投げかけて、リヴァイは洗面所の扉を閉じた。