第5章 近づく心
アイリーンとの距離を詰めるのはやめよう。
そう決めてから、まだ3日程しか時間は経っていない。
なのに、今自分はアイリーンに近づいてその華奢な体を抱きしめたいと思ってしまっている。
リヴァイは内心で自分の不甲斐なさに悪態をつきつつ、目の前の女性へと気持ちを戻した。
「…わかったから、もう部屋に戻って大人しく寝ろ。明日に響くぞ。」
「……はい、わかりました。」
全く同意していない表情で頷くアイリーンに、リヴァイは溜息を吐く。
「…不服そうだな。何か不満でもあるのか?」
「……いえ。そうではないのですが、その、」
アイリーンは両手をお腹の前で組んで、少し言いよどむ。
言い難い事なら、少し待とう。
そう決めて、リヴァイは胸の前で腕を組み、次の言葉を待った。
そろそろ夕日も黒に変わろうとする頃、ようやくアイリーンは口を開いた。
まだ少し言葉に躊躇いを残しながらも、リヴァイにしっかりと顔を向けて言葉を紡いだ。
「その、ですね。明日の事を考えるとどうも落ち着かなくて。部屋に一人でいるのも、その…心細くて。じっとしていられなかったんです。」
照れながら、体の前で作っている両手を握りしめながら、言葉を詰まらせながらもアイリーンは最後まで言い切る。
言い切った後は、恥ずかしいのか顔を両手で覆って隠してしまった。
その仕草と、言葉はリヴァイの心をさらにグラグラと揺らしていく。
どうしてだろう。
どうしてこのアイリーンという女は、こうも自分の心に深く食い込んでくるのだろう。
考えれば考えるだけ、リヴァイは深みに嵌っていく自分に気づいていたが
考えないという選択肢は当の昔に消えているかのように、彼女の事を考えてしまっていた。