第5章 近づく心
ハンジはよくこんな風に頭を撫でてくる。
まるで母親のように優しいハンジの手つきは、密かにアイリーンの癒しになっていた。
「こっちはもう大丈夫だから、アイリーンは明日に備えてくれ。初めての壁外なんだからね。」
「…はい、わかりました。」
頭から離れていく温もりに、少しだけ淋しさを覚えながらもハンジの言葉に素直に頷くしかなかった。
本当は、休んでください。私に任せてください。
なんて言葉が言えたらいいのに。
ハンジの力にもっともっとなれたらいいのに。
そんな事を思いながらも、ハンジの休んでいいという言葉にアイリーンは頷くしかない自分が悔しかった。
まだ入隊二年目。
実質一年は病気で休んでいたのだから一年目。
さらに壁外へ向かうのも初めて。
初心者に多くを求められないハンジの気持ちは理解できるのに、それでもアイリーンは悔しい気持ちを拭えなかった。
「なにか飲み物持ってきますね。」
また手元の書類に視線を向けて、黙々と仕事を始めたハンジにそう声を掛ける。
ハンジは集中しすぎているのか、返事を寄越さない。
それでも、アイリーンはハンジに背を向けて給湯室へと足を向けた。
今自分にできることは、休むことだけかもしれない。
でも、絶対に落ち着いて休めないことは自分が一番知っている。
少し速足になりながら、アイリーンは建物へと姿を消した。