第5章 近づく心
「ハンジさん。今よろしいですか?」
いよいよ壁外調査を明日に控えた日。
アイリーンは中庭にいた。
周りには同じ班として戦う仲間の他にも、準備を手伝うために駆けつけてくれた兵士達で溢れている。
その中からお目当ての人間を見つけたアイリーンは、手に書類を数枚抱えてその人物に話しかけていた。
「その荷物は今回要らないよ。外してて。あ、その備品はもっと必要なんだ。用意して積んでて。あー、その書類はエルヴィンに持って行ってくれるかい。」
「あの、ハンジさん。」
お目当ての人物、ハンジ・ゾエは手元の書類に視線を向けたまま まるで指揮でもしているかのように手を動かしながら周りに指示を与えている。
その姿からは、いつものへらっとした態度など微塵も感じ取れない。
キリッと格好いいハンジ分隊長がそこにはいた。
明日が壁外調査なのだ。
ハンジの気合の入れ方が違うのもわかる。
なにせ研究に研究を重ねて完成した、巨人捕獲作戦をメインとした調査になるのだ。
気合がはいらないわけがない。
「ハンジさん。確認終わりましたよ。」
「お、アイリーンじゃないか!いつから居たんだい?まったく気づかなかったよ!」
アイリーンの呼びかけにやっとこちらを向いたハンジの顔は、想像通りの顔だった。
疲れてやつれて、目の下の隈が筆でも引いたかのように色濃く見える。
アイリーンは思わず口から出そうになった言葉をグッと堪え、考え出した別の言葉を紡いだ。
「ついさっき来たんです。こちらの確認が終了したので書類を持ってきました。確認をお願いしたいのですが。」
「もう終わったのかい、助かるよ。」
眼鏡の奥の瞳が優しくこちらに笑いかけると、アイリーンの手から書類を受け取った。
ハンジの手にある束のような書類の一番下に纏めると、お疲れさま。とアイリーンの頭を軽く撫でる。