第5章 近づく心
強くもない。弱くもない。
程よい強さで抱きついてくるその腕を、アイリーンはどうするべきか悩んでいた。
本当は、肩を押して離れるべき。
そう頭では思っているのに、心がそれを望んでいない。
今私の真横にあるこの両の手も、どこに在ればいいか分からず、宙ぶらりんのまま。
ただその場でぐっと握り締めていた。
「…本当に、素直だな。感心する程に。」
「それ、褒めてるんですか?」
自分の頭上から降ってくる、優しく少し低い声。
その声の主はアイリーンの返事に、喉をクツクツと鳴らして笑った。
「誉めてるんじゃないか、多分。」
「そこは誉めてる。と言ってもいいんじゃないですか、多分。」
リヴァイの意地悪な発言に、アイリーンも意地悪に返事をする。
たまには言い返してもいいよね。
とリヴァイの胸でクスクスとアイリーンは笑った。
腕の中で楽しそうに笑うアイリーンを、リヴァイは優しく見つめていた。
リヴァイの表情は幾分か柔らかいが、その心はぐちゃぐちゃだった。
そばにいると言ってくれて、嬉しかった。
逃げずにこの腕の中にいてくれることが、嬉しかった。
本当は、もっと彼女の笑顔を見たい。
でも、それを願っても求めたくはなかった。
自分が卑怯に見える。
逃げているように見える。
自分とは、こんなに臆病だったのかと溜め息が溢れる。
弱い自分を認めたくはなかったが、認めて前に進むしかない。
……そう
アイリーンと距離を0にするのは、これを最後にするんだ。