第5章 近づく心
言ってしまった言葉は戻らない。
アイリーンは今まさに、その言葉を身に染みて感じていた。
そばにいる。なんて言葉をリヴァイに向けた後、恥ずかしさで顔から火が出そうだった。
その後一生懸命に色々喋ってみた。
普段こんなに喋ったことない! というくらい、喋った。
けれど、どれだけ話してもリヴァイの表情に変化はない。
ただ黙って、私の顔を見つめるだけ。
その真っ直ぐな視線に、自然と私の声は小さくなっていき、口を閉じた。
未だに頬に添えられているリヴァイの手。
その手にはもうアイリーンの手は添えられてはいない。
リヴァイは、口を閉ざしたアイリーンにふっと微笑む。
「リヴァイさん……っていひゃい!」
優しく微笑むリヴァイの顔に、油断した。
突然触れていた頬を、その手でぷにっと摘まんできたのだ。
手加減はしているようだが、結構痛い!
だが、そんな何の脈絡も無いイタズラは直ぐに終わった。
意外にあっさりと手を離したリヴァイは、離した手をそのままアイリーンの腕へと伸ばし、捕まえる。
次々に起こる事態にアイリーンは、摘ままれていたほっぺを擦りながら、リヴァイの行動にはてなマークを浮かべた。
次は何を…
「って……ちょっと、あの……」
ぐっと引かれたアイリーンの腕は呆気なく、引かれたリヴァイの胸へと飛び込む。
そのまますぽりと、気づけばリヴァイの腕の中に収まっていた。
途端、思い出す“あの日”。
今の状況と重ねてしまい、アイリーンは頬を染めた。
だが、あの時とは違いリヴァイは抱き締めたまま、アイリーンを離さない。
意地悪を言うでもなく、イタズラを仕掛けるでもない。
ただぎゅっと、アイリーンを抱き締めたまま。