第5章 近づく心
顔を上げた先。
リヴァイは自分の口元に手を当て、少しだけ困ったような、笑っているような、照れているような。
そんな不思議な表情で、考え込んでいた。
窓から射し込む日の光が、妖しくリヴァイの横顔を照らす。
その光景があまりにも綺麗で。
思わずアイリーンは息を飲んだ。
人に対して綺麗だとか思ったことはある。
美人な女性や、エルヴィン団長だってあの煌めく髪は綺麗だ。
でも、今目の前にあるこの光景は少し違う。
まるで、一枚の絵のような。
心奪われる景色のような。
言い表し難い素敵な姿が、そこにはあった。
「……そうだな。照れていたんだ。」
考えが纏まったのか、動かずじっと思案していたリヴァイが口元から手を離し、アイリーンに視線を合わせた。
思わず見いっていたアイリーンは、動きを見せたリヴァイに咄嗟の言葉は出ず。
無言でリヴァイの言葉を待った。
「最近の俺はおかしい。もうすぐ璧外調査だというのに、上の空だ。それに、誰かに固執しそうになっている。」
カツン。
リヴァイのブーツの音が響く。
一歩二歩と近づくリヴァイに、アイリーンは逃げる素振りを見せない。
ただ、目の前のその人を見つめている。
直ぐ目の前まで迫ったリヴァイは、アイリーンの頬へと手を伸ばし、優しく触れた。
久しぶりのリヴァイの暖かな体温。
思わず目を瞑りそうになる心地よさ。
アイリーンは次第に高鳴っていく胸にさえ、心地よさを抱いた。
「だが、あいつだって堪えている。俺も、誰かに固執したくはない。」
優しい光を宿していたリヴァイの瞳は、少し影を見せ始める。
あいつ……とは、誰だろう。
堪えるとは、何の事だろう。
分からない言葉に引っ掛かりを覚えるが、それよりも今目の前にいるリヴァイの表情に、アイリーンは眉を下げた。
「……どうして、そんなに苦しそうなのですか。」
「………。」
苦しそうな、悲しそうな。
そんな負の感情を表に出すリヴァイに、アイリーンは自然と問いかけた。
分からない。
リヴァイという人を知りたいのに、アイリーンには分からない。
リヴァイの話した内容も、その表情の理由も。
分かりたいのに、分かることを許されない気がしていた。