第5章 近づく心
「あの、リヴァイさん」
「予想が外れた。」
え?
丁寧に拭いていくリヴァイは、その手を休めること無く、まるで独り言のように呟いた。
理由を聞こうと近づいたアイリーンは、そこで足を止めてリヴァイの言葉を待った。
「外が見える窓だ。初めての璧外調査に不安だったのではないか。その思いが外を見たことで押し寄せたのではないか。なら、今のうちに吐露しておいた方が楽になる。そう考えた。」
だから、しつこく聞いた。とリヴァイは続けた。
……まさか、そんな事を考えていたなんて。
考えもしなかった言葉に、胸が暖かくなるのを感じた。
やはり、リヴァイという男は優しい。
いつもは無愛想で言葉にも棘が出やすい。
それでも、兵士の事をよく考えて不安を減らそうとしてくれている。
そんなリヴァイに、アイリーンは高鳴っていた鼓動が静かになるのを感じた。
「だが、まさか自分の事だとは思わなかった。……少し驚いた。」
声量が小さくなるリヴァイに目を向ければ、ほんのりと頬を紅くする横顔が目に入った。
も、もしかして…
「照れて、ますか?」
アイリーンの言葉に、リヴァイはピクリと反応をみせて動きを止めた。
アイリーン自身も、つい出てしまった言葉に咄嗟に口を両手で隠す。
私のバカ!
リヴァイさんに何を言っているの…!?
照れてるか。なんて見れば分か……じゃない。
言わなくてもいい言葉なのに!
「す、すみません! 変なことを言いました。忘れてください! 」
リヴァイの瞳がこちらへと向くのを見るや否や、バッとアイリーンは頭を下げて本日何度目かの謝罪を口にした。
もう話はここまでにしよう。
顔を上げたら、バケツを替えるとか言って取り敢えず脱出しよう!
もう逃げるという考えしか頭になくなり、それでもなるべく冷静を装ってアイリーンはゆっくりと顔を上げる。
顔をあげた先で見たリヴァイの顔。
その表情を見た瞬間、アイリーンはハッと息を飲んだ。