第5章 近づく心
逆らえない圧というものは、今まで幾度か経験してきた。
だが、リヴァイの圧はビリっと肌に触れると痺れそうな程つよく感じる。
何故そこまで理由に拘るのか、アイリーンには見当もつかなかったが、この状況で嘘はつけない。
がくりと肩を落として、アイリーンは少し恥ずかしそうに顔を逸らして口を開いた。
「えっと……わ、笑わないで下さいね。」
「ああ。」
「……コホン。あの日以降、リヴァイさんに会うのが初めてで、その、緊張したといいますか。は、恥ずかしかったと、言いますか……。それで集中力が欠如してしまったと言いますか……。」
一つ咳払いをわざとらしくして、ゆっくりと話し出すアイリーン。
最後の言葉は、消え入りそうに小さくなってしまったが、この距離ならきっとリヴァイには聴こえただろう。
話終えても無言のリヴァイ。
やっぱり逃げたい……。
顔をリヴァイに向けられないままのアイリーンに、リヴァイはブーツを鳴らして近づいた。
お、怒られる……!
変なことを考えてるんじゃないって、怒られる!
次に来るであろう言葉を予測して、アイリーンは肩を強ばらせる。
だか、リヴァイの言葉はアイリーンの予測とは大きく違っていた。
「……雑巾を寄越せ。」
「………え?」
意外な言葉に、アイリーンはパッと顔を上げる。
そこには、いつもの表情に戻ったリヴァイがこちらに向かって手を差し出していた。
叱咤でも同意でもない。
無関係の言葉にアイリーンは無意識に、雑巾をリヴァイへと渡した。
受け取った雑巾を手に、リヴァイは窓へと向かうと拭き掃除を始める。
理由の分からない行動に、今度はこちらが理由を聞きたくなった。