第5章 近づく心
「すみません! 窓の拭き方に特に拘りもせず、赴くままにしていました。反省致します!」
考えた結果、出した言葉は偽り。
掃除の仕方は、小さな頃から母に叩き込まれてきた。
だから、どこを重点的にするべきか。
場所によっての掃除の仕方の違い等は、心得ているつもりだ。
だが、今はさっきの言葉通り、適当にしていた。
リヴァイの事を考えすぎて、適当になりました!
など言えるはずもない。
いや、言ったら確実にこの場から私は逃げ出すだろう。
言える範囲で、自分の非を認めつつ偽りを。
それしか、アイリーンの選択肢はなかった。
だが、アイリーンの謝罪を受けても、リヴァイは表情を変えない。
なんならさっきよりも
……って怖っ!
まるで睨むかのようなリヴァイの表情に、アイリーンは思わず足を一歩後ろへと引いた。
その表情のまま、リヴァイは少しだけ口角を上げると口を開いた。
「ほう。俺様に嘘を吐くとはな。大した奴だ。」
「何故、嘘だと思うのですか……?」
ニヤリとした、心臓に悪いリヴァイの笑顔を見て、アイリーンは逃げ出したかった。
何故嘘だとバレたのか。ということよりも、バレて本当の事を言え。と言われる方がキツイ。
「他の掃除は完璧に近い。なのに窓だけ雑。拘りもせずに掃除するやつは、最初から雑なんだ。簡単に分かる矛盾だな。」
「いやーさすがはリヴァイさん。素晴らしい観察眼でごさいます……。」
「惚けるな。本当の理由を話せ。」
本当理由。
その言葉に、アイリーンはピクリと肩を反応させた。
リヴァイはその反応に気づくが、然程気にもせず、アイリーンを見つめる。
アイリーンは考える素振りをして、窓の外へと視線を泳がせた。
言われてしまった言葉。
避けようとしていた言葉だけに、アイリーンの心臓はドクドクと自分の耳に響いてくる。
リヴァイにも聴こえはしないかと思う程の音の中、アイリーンは未だに嘘を考えていた。
まだ。
まだ言い訳は言える。
初めての璧外調査について考えていたと。
そうすればバレない。
リヴァイも深く追求はしないはず。
よし、この案で行こう。
覚悟を決めてリヴァイに向き直る。
が、向き直った先のリヴァイは、「二度目はないぞ。」と無言の圧力を向けている。
……ああ、終わった。