第5章 近づく心
バケツの水を交換して戻ってきた時は、本当に吃驚した。
一瞬水を引っくり返しそうになった程に。
さっきの会話、変じゃなかったかな。
畏まりすぎてなかったかな。
もしかして、ここ数日会わなかった事を、避けている。とか思われたかな……。
拭き掃除をしながら、アイリーンは頭の中で沢山の反省と答えを探した。
だが、いくら考えても頭がパンクしそうになるだけ。
よくよく手元を見てみれば、きちんと拭き掃除も出来ていない。
これじゃ、ダメだ。
仕事に手を抜くのと同じ事。
最後まで完璧にしなくては。
そう考えてもまだ色々と考えようとする頭を、一度切り替えるために、アイリーンは使った雑巾を冷たい水の中へと浸した。
冷たさが身体を伝わってくる。
頭をスッキリさせる効果は、少しはありそうだ。
ぎゅっと絞った雑巾を持って、窓ガラスへと眼を向けると、さっきまで部屋の中央に居たリヴァイが、何故か窓ガラスの前に立っていた。
その顔は、眉間にシワを寄せて、険しそうな表情で顎に手を置いている。
まるで睨んでいるようにも見えるその眼は、窓からの景色ではなく、完全に先程までアイリーンが拭いていた窓ガラスへと向けられている。
その様子のリヴァイを見た瞬間、アイリーンの背中をヒヤッとした物が通った。
やばい。絶対に言われる……!
下手くそって怒られる……!
リヴァイさんの事を考えすぎて、本物のリヴァイさんへの注意怠ってしまった…
そうアイリーンが思ったのと同時に、リヴァイの顔がこちらを向いた。
その顔は、やはり険しい。
あーもうダメだ。
説教一時間コースだぁぁ……
「おい、この拭き方はなんだ。」
やっぱりきたよ!
想定内だよ!
低めの声にビシッと姿勢を正すと、アイリーンは正直に話すべきかどうか迷った。
折角冷水で冷静になった頭は、再度混乱し始めていた。