第5章 近づく心
「うぅ……。漸く終わりそう。」
モブリットから渡された手袋を着用して、掃除を始めてから約三時間。
漸く終わりの見えそうな部屋に、アイリーンはホッと息を吐いた。
思い起こせば大変だった……。
未確認の書籍に、借りたままの本。
書きかけの手紙や、発明途中の道具類。
触れた瞬間、煙が出てきた物もあったな…。
何とか片付けて、ハンジの新しい仕事も発掘出来た。
あとは窓ガラスでも拭いておこうかな。
バケツに新しい水を汲みに行こう。
アイリーンはバケツを持ち上げると、研究室を後にした。
「さて。続きを……って、どうされたんですか?」
水を変えて戻ってくると、そこには先程までは居なかったリヴァイの姿があった。
研究室のど真ん中に立ち、辺りをぐるりと見回している。
アイリーンに気づくと、視線をアイリーンに合わせ、そのまま持っているバケツへと下げる。
「この部屋、お前が片付けたのか」
「あ、はい。そうです。」
リヴァイは「そうか。」と答えると、また部屋を見回す。
どうしたのか。と不思議な気持ちになったが、アイリーンはこちらを見ずに部屋を見続けるリヴァイを気にしない事にして、拭き掃除に取りかかる。
雑巾をバケツの中の水に浸すと、ヒヤッとした感覚が手から伝わる。
その冷たさに一瞬手を止めつつ、一気に雑巾を濡らした。
ザバッという音と、雑巾を絞る音を耳に留めつつ、リヴァイの事を後ろでに気にしながら。。
気にする理由は明白だ。
リヴァイが潔癖性なので、何か掃除の仕方に意見を言ってくるのではないか。
そして、恐らく一番の理由が“あの日”から、一度も会っていないから。
“あの日”、何故だか甘い雰囲気に飲み込まれてしまった時から、まるでお互いに避けているかのように
全く顔を合わすことがなかった。
アイリーンとしては、少しホッとしていたのも事実。
次の日なんかは、どうやって話したらいいだろうかと、一晩考えてしまう程だった。