第5章 近づく心
「あ、お疲れ様です。モブリットさん。」
「お疲れ様、アイリーンさん。」
ハンジと別れた後、アイリーンはハンジの研究室へと足を運んだ。
もうすぐ璧外調査。
今回の調査では、ハンジが考えた新しい巨人捕獲装置の実験が許可されている。
その為、アイリーンとモブリット等ハンジの部下達はその準備に追われている。
研究室では、既にモブリットが準備に取りかかっていた。
「遅くなりました! 私も手伝いますね。」
「ありがとう。じゃぁ悪いんだけど、部屋の掃除を頼んでもいいかな?」
璧外に持っていくであろう機器を手に持ちながら、モブリットは研究室に視線を向ける。
それに習ってアイリーンも部屋を見渡した。
この部屋の一番大きな窓の前にある大きな机の上には、分厚い書籍が積まれている。
その書籍の横には乱雑に置かれた資料の紙や、ハンジの私物。
今にも溢れそうなインク。
床に眼をやれば、資料・私物・ゴミ・実験器具……
壁に設置してある本棚も、溢れんばかりの大量の本。
「……確かに、片付けないと大変ですね。」
「そうなんだ……。すまないけど、任せていいかな?」
疲れたようにアイリーンを見るモブリットは、何処か哀愁でも漂ってきそうだ。
アイリーンは「任せてください!」と胸を張り、少しでもモブリットの負担が減ればいいな。と笑顔を見せた。
こう見えても掃除は好きな方だ。
……得意という訳では決してないが、初めての璧外調査に戸惑って、準備の邪魔をしてしまうよりも自分なりに最善を尽くせる事柄だ。
よし。と気合いを入れて、さて何処から片付けようかと、アイリーンが袖を捲ると、モブリットが手袋を持ってアイリーンに近寄る。
「これは絶対着けて下さいね。ここは危険な薬品なんかもありますから……」
どこか遠い眼をして話すモブリット。
何か嫌な記憶でも思い出しているのだろうか……。
危険な薬品という言葉に、アイリーンはごくりと生唾を飲み込む。
「わ、わかりました……。ありがとうございます。」
震えた手でモブリットから手袋を受けとると、モブリットはアイリーンの眼を見て頷く。
それにアイリーンも合わせて、頷いた。
“絶対に、無事に掃除を終えよう。”
二人の決意が、ここに固まった。