第5章 近づく心
それから数日が経ったある日。
調査兵団内は、何時にも増してざわついていた。
理由は明白。
そう、もうすぐなのだ。
初めての璧外調査が。
「これ、この荷台に積んでくれるか? あと、こっちも。」
「ちょっとこれちゃんと点検したの? ガス切れてるの混じってるけど。」
「すいませーん! これ、どうしたらいいか分からないんですが! 」
兵団内の皆は、廊下や中庭、門の前。
どこにでもいて、その誰もが右往左往していた。
……いや、一部の人間を除いて。が正しいか。
「いやはや、皆忙しそうだねぇ。」
「ハンジさんも少しは忙しそうにしてください。」
廊下を走り回る兵士をものともせず、悠然と歩くのは、ハンジ・ゾエ。
その後ろをため息混じりに付いていくのは、部下のアイリーン・アボットだ。
「僕も忙しいんだよ? でも、骨折り損のくたびれ儲けって言うだろ?」
「ハンジさん、それ間違ってます。」
「あれ? そうかなぁ。国語はアイリーンには叶わないなぁ。」
あはは!と軽快に笑うのを見て、またふざけている。と今度は諦めのため息。
ハンジの部下になってからというもの、ため息を吐かない日はないと思う。
「お、ハンジか。丁度よかった。」
「エルヴィン! 僕も今向かってたんだ。奇遇だね。」
廊下の突き当たりから現れた、調査兵団団長 エルヴィン・スミス。
金色に輝く綺麗な髪が、日に反射してきらきらと煌めく。
一度は触りたい髪だ……。
「おや、アボット君だね。先日は大変助かった。ありがとう。」
「あ、いえ!お役に立てて光栄です! 」
ハンジに向けていた視線を、アイリーンに向けたエルヴィンに、アイリーンの胸はドキリと高鳴る。
大きな背丈に、綺麗な青い瞳。
容姿は綺麗だけれど、その強い眼差しと威圧感。
圧倒される存在に、アイリーンは思わず姿勢を正した。