第5章 動き出す黒い影
「ん…ぅ」
ゆっくり目を開ける。
そこには心配そうな壮五さんの顔があった。
「良かった、目が覚めたかな。体調とか大丈夫?」
「は、はい」
あれ?私なんで寝てるの…?
上体を起こすとさっきまでとは違う景色。紫ではなく、オレンジを基調とした部屋。
「ん、起きたか?」
ひょこっと視界に移り込むオレンジ色。
「三月さん…」
「話は聞いたぜ。急な事で疲れとか出たんだよ、これ飲んで休みな」
そう言うと甘い香りの漂うマグカップを手渡してくれた。
「俺特製のホットココア。温かいもの飲んだら少しでも落ち着くかなー、なんて」
「美味しそう…!ありがとうございます!」
1口飲んでみる。
口の中いっぱいに広がる甘さ。それをカカオの風味とミルクのまろやかさで程よい甘さに仕立て上げる。
「美味しい…」
「良かった!甘過ぎないかちょっと不安だったんだよ(笑)」
美味しいココアと明るい笑顔に癒される。
それを見て取れたのか、壮五さんが口を開く。
「落ち着けたみたいで良かった。…一息ついて直ぐに申し訳ないんだけど、何があったか覚えてるかな」
「…あ」
そうだ、私倒れたんだ…。
楽さんが来て、壮五さんが助けてくれて……それで…?
「私、なんで倒れたの…?」
「…やっぱり、覚えてないんだね」
壮五さんが深刻そうに顔をしかめる。
「2回目に銃口を向けられた時、何かを呟いていたんだ。あと、それに反応するかのように…首飾りが光っていたんだ」
「首飾り…?」
ふと自分の首元に触れる。
…あれ、私、こんなネックレス知らない…。
ココアを近くのテーブルに置き、手に取って見る。…と、そこにあるのはいつも付けている様なシンプルなデザインの物ではなかった。
「綺麗…」
大きめの雫型の水晶の様な透明の石が付いた、少し豪華なものだった。
私の言葉に違和感を覚えたのか、壮五さんが尋ねる。
「君のじゃ、ないのかい?」
「私、こんな素敵なもの持ってないです…」
「アリスだから、だよ」
不意に後ろから声がする。
振り返ると窓の枠に腰掛ける大和さんの姿があった。
「おっさん!ちゃんとドアから入れって言ってるだろー!」
大和さんに気付いた三月さんが声を荒らげる。
「いーじゃん、減るもんじゃないし」
「ビックリして俺の寿命が減るわ!」