第5章 動き出す黒い影
「アリス!」
壮五さんの声が聞こえるが目の前が暗く、姿を確認することが出来ない。
目元を圧迫するような感触に温もりを感じる。
これは…手…?
「悪いが、我等が王の命だ」
誰かが私のすぐ後ろで喋る。
…私、目を塞がれているの?
やっと今の状況を理解した私に、遅れて恐怖が襲ってくる。
「だっ…誰、ですか…」
震える声で静かに問う。
「…」
「離してくんない?…ガク」
口を開く気配のない人物に大和さんが話しかける。
え、が、楽さん…?
「…やっぱりお前には叶わねーわ」
この声、やっぱり楽さんみたい…。
「アリス、お前を傷付ける事はしない。ただ、テン…王の元へ案内するだけだ」
「なりません」
すかさず壮五さんが口を開く。
「彼女を黒の国へなど連れて行かせません」
ヒュッと風を切る音が耳を掠めると同時に目元を圧迫する温もりが消える。
急な光に一瞬目が慣れず瞬きをする。
「ソウ…お前怖いって…」
大和さんが呟く。
目が慣れると視界に映る壮五さん…と私の方へと伸びる剣。そっと横目で見ると私の顔の真横で剣先が止まっている。
「っ!?!?」
「流石エース、アリスには傷一つ付けずに俺の手を…」
壮五さんが剣を持っていない方の手で、恐怖で固まる私を引き寄せる。
それも束の間。いつの間にか手にしていたのだろう、楽さんが銃口を向けて瞬時に引き金を引く。
「きゃ…!」
「大丈夫」
壮五さんが目にも留まらぬ速さで銃弾を切る。
…え、銃弾を、切る?
カラン、と音を立てて足元に落ちたものは真っ二つになった銃弾らしきもの。
「噂通り…いや、それ以上だな」
また引き金を引こうとする楽さん。
どうして。怖い。嫌、死にたくない。
「ーっ!」
身体が熱い。
目の前が白く霞んでいく。
誰かの声が頭に響く。
…争いは、許されない。
「アリス!」
大和さんの声でハッと我に返る。
あれ、今、何を…?
「悪いけど、こればかりは手を引いてくんない?」
大和さんが楽さんに詰め寄る。
暫く無言のまま睨み合う2人。
「っ、仕方ない。次は連れて行く」
楽さんがマジックのように姿を消す。
それを見るなり、安心したのか、私は意識を手放した…。