第5章 動き出す黒い影
おどけた様に肩をすくめると私の方へと歩み寄る大和さん。
やっぱり、猫みたい…。
「まーたアリスは俺を猫って思ってる…」
「えっ」
また、心を読まれた…?
「何言ってんのおっさん。チェシャ猫のくせに」
「だからそれは職業柄[猫]って付いてるだけで、おにーさんは猫じゃないんだって」
「は?猫じゃん」
「猫ですね」
三月さんの言葉に壮五さんも賛同する。
そのやり取りが可笑しくて。
「ふ、ふふっ…」
「…うん、笑ってる方がいいな」
ふと、三月さんが言う。
「そうですね、笑顔が似合います」
「そ、そんな…」
壮五さんまで…。
なんだか恥ずかしくなってしまう。
「さて、和んだ所で…本題に入りますか」
大和さんが深刻そうに表情を変える。
その瞬間、ピリッとした空気になり張り詰めた緊張感が襲う。
「その首飾りは[アリス]が必ず身に付けると言われている守り石が付いたもの。[この世界]に着いた時にでも付けられたんだろ。…ついでに、あの様子だと覚醒時に発動されるみたいだけど」
つらつらと説明する大和さん。
とりあえず、私が持ってても大丈夫そう。
「なるほど…」
「だが問題はそこじゃない」
「わかっています。黒の国が本格的に動き始めたんですよね」
黒の国が動きはじめた。
そのワードに思わず身を固くする。
さっき起きた出来事がフラッシュバックする。
急に閉ざされる視界。
開けた視界には剣を持つ壮五さん。
壮五さんの腕の中から見えた、銃を構える楽さん。
「大丈夫か?」
三月さんが顔を覗く。
慌てて思考回路を現実に戻す。
「すみません…大丈夫です」
いけない、今はちゃんと話を聞かなきゃ…。
三月さんが作ってくれたココアを飲み、自分を落ち着かせる。
あぁ…やっぱり美味しい。
「黒の国もアリスの存在に気付いたのは知ってた。にしても、こうも早く動きを見せるとはな…」
大和さんが話を再開する。
「アリスが来てまだ半日だ。何か危機迫ってる感じなのか…」
「そうですね…僕もそう思います」
「また争う事になるのか?」
大和さんと壮五さんの話に三月さんも加勢する。
「いや、まだわからない。向こうが何をしたいのかが分かれば話は別だが…」
「まだ様子見ですね…」
とりあえず大変な事になったみたい…。