第1章 プロローグ
マテールより100km東へ進んだ先にある小さな街にて。
「アラン!今日も夜いるんだろー?」
「もちろんです!お仕事が終わったら皆さんでいらしてくださいねー!」
アランはこの街の小さな酒場で働く16歳の少女である。
「ちょっくら頑張ってくるかー」
「仕事終わりにアランちゃんの歌声聞くと癒されるからなー。ついつい毎日行っちまう」
「お上手なんですからー。みなさん頑張ってきてください!」
男達に手を振り、家に戻ろうとするとアランは不意に後ろから抱きしめられた。
「お兄さんのこともちゃんと見送ってほしいなー」
「てぃ、ティキさん!」
「んで?俺のことは見送ってくれないの?」
「ティキさん……あの……お顔が……近いです……」
アランはティキの胸に手を置いて押し返そうとするが、抱きしめる力は全く緩む気配はない。
「ちゃんとアランが見送ってくれるまで離れねーよ?」
「お、お仕事頑張ってください……夜、お待ちしております……」
アランはティキのことをそっと抱きしめ返すと小さく呟いた。
「よし、行ってきます」
ティキはアランの頬に軽くキスをすると手を振りながら仕事へと向かって行った。
「朝から見せつけてくれるねー」
「お、おばさん!」
「さっさとくっついちまえばいいのに」
「ティキさんはきっと私のことをからかっているだけです。それに、ティキさんに私は釣合いません……」
「なーにいってんだい!それにね、あんたは私の娘同然なんだ。こんなに可愛い子をからかって捨てるなんてあたしが許さないよ!」
「おばさーん!!」
アランは勢いよくおばさんに抱きつき、またそれを暖かく受け止める。
幸せな生活に影が忍び寄る……。